AIMS(ISO/IEC 42001)とPマーク・ISMSの違い|既存認証があると何が短縮できるのか
AIMS(ISO/IEC 42001)は、AIの「性能」ではなく「組織としてAIをどう使い、リスクをどう管理しているか」を第三者が認証する仕組みです。2023年に発行された国際規格で、日本では2025年7月にISMS-AC(情報マネジメントシステム認定センター)による認定が始まりました。
よくいただくご質問が、「Pマークや ISMS を持っていれば、AIMS は楽になりますか」というものです。
結論から申し上げると、楽になります。7割は既存のマネジメントシステムと同じで、新しいのは3割です。ただしその3割は、従来の情報セキュリティの枠組みでは扱ってこなかった性質のものです。
この記事では、3つの規格の違いを「守る対象」で整理した上で、既存認証がある企業が何を短縮でき、何を新しく作る必要があるのかを実務の視点で解説します。
目次
守る対象で整理すると、違いは明確
3つの規格は、守る対象がそれぞれ違います。
| Pマーク | ISMS | AIMS | |
|---|---|---|---|
| 規格 | JIS Q 15001 | ISO/IEC 27001 | ISO/IEC 42001 |
| 守る・扱う対象 | 個人情報 | 情報全般(技術情報・営業秘密を含む) | AIの利用そのもの |
| イメージ | 特定の資産の守り方 | 資産全体の守り方 | 新しい道具の使い方と付き合い方 |
| 中心となる論点 | 個人情報の適切な取り扱い | 情報を守ること | 出力の信頼性・判断の偏り・責任の所在 |
Pマークは個人情報を守る仕組み。ISMSは、個人情報に限らず技術情報や営業秘密も含めた情報全般を守る仕組みです。
AIMSはここから一歩踏み込みます。情報を守るだけでなく、AIの出力を信じてよいのか、判断が偏っていないか、問題が起きたとき誰が責任を持つのか。AIと組織の関係全体を扱います。
守る話から、使いこなす話へ。そこが違いです。
認証されるのは、AIの性能ではない
ここは誤解されやすい点です。
AIMSで審査されるのは、導入しているAIツールの精度や性能ではありません。どんなAIを、どんな目的で、どんなルールのもとで使い、リスクをどう洗い出し、問題が起きたらどう対処するか。その管理体制です。
社内でAI利用ガイドラインを作っている企業も増えていますが、社内ルールとAIMSには決定的な違いがあります。続く仕組みかどうかです。
社内ルールは、作った担当者が異動すれば止まります。AIMSは1年ごとのサーベイランス審査、3年ごとの本審査で外部の目が入り続けるため、体制が生き続けます。
既存の体制は、そのまま土台になる
「7割は同じ」と申し上げた根拠は、マネジメントシステムの骨格が共通しているからです。
方針を定める。リスクを洗い出す。ルールを作る。教育する。監査して見直す。このPDCAの骨格は、PマークでもISMSでもAIMSでも変わりません。その上に、それぞれの規格が求める要件を載せていくだけです。
ですからISMSを運用している企業にとっては、既知の世界です。文書体系も運用体制も流用できます。
- 情報セキュリティ方針 → AI方針の土台になる
- リスクアセスメントの手順 → 対象にAI利用を追加する
- 内部監査の仕組み → 監査項目にAI関連を追加する
- 教育の実施記録 → AI利用に関する教育を追加する
- 是正処置の手順 → そのまま使える
ゼロから作るのではありません。今ある土台に、AI特有の3割を積む作業です。
新しい3割は「リスクの中身」
では、その3割とは何か。リスクの性質そのものです。
従来の情報セキュリティは「情報を守る」ことが主題でした。出してはいけない情報が外に出ないようにする、という考え方です。
AIのリスク管理には、これに加えて逆向きのリスクが入ります。
誤情報(ハルシネーション)
AIは分からないことでも、もっともらしく自信を持って答えます。それが検証されないまま資料や判断に混ざり込みます。情報漏洩が「外に出る」リスクなら、誤情報は「信じてはいけない情報が中に入ってくる」リスクです。向きが正反対です。
判断の偏り(バイアス)
人事評価や書類選考の一次スクリーニングにAIを使う例が増えています。ここで問題になるのは、AIが勝手に偏ることではありません。指示する側の無意識の前提を、AIが忠実に増幅することです。 過去のデータや評価基準に偏りが含まれていれば、人間より徹底的に再現します。しかも現場は「工数が減った」と効率化を実感しているため、気づきにくい。
責任の所在
AIの出力をもとに判断し、それが誤っていた場合、誰の責任になるのか。どこまでを人間が確認する設計にするのか。承認フローの自動化が進むほど、ここを決めておく必要が出てきます。
いずれも、既存のISMSではカバーしきれない領域です。ここが新しい3割です。
取得までの期間と、審査機関の数
実務上、押さえておくべき数字があります。
- 取得までの期間:構築 → 申請 → 一次審査 → 二次審査 → 指摘事項の改善 → 取得。すべてたどると10ヶ月程度、余裕を見れば1年近くかかります
- 審査機関の数:2026年8月19日現在、ISMS-ACが認定した認証機関は、ISMSが27機関に対しAIMSは2機関です。海外の認定機関による認証を含めればこれより多くなりますが、いずれにしても選択肢は限られます
- 取得後のコスト:1年ごとにサーベイランス審査、3年ごとに本審査
つまり、取引先から求められてから動くのでは間に合いません。
入札情報でPマークやISMSを必須条件とする案件は約2,000件あります。AIMSは現時点ではまだ「望ましい」にとどまっています。必須にすると応札できる企業がなくなってしまうからです。
しかしこれは変わっていきます。かつてのISMSがそうだったように。コンペでAIMSを持っている企業と持っていない企業が並べば、選ばれるのはどちらかという話です。
既存認証がある企業が、今やっておくべき三つのこと
1. 自社のAI利用の実態を把握する
経営が「まだ本格導入していない」と考えている企業でも、現場は議事録の要約やメールの下書きに使い始めているケースが多くあります。導入していないのではなく、把握していないだけ。まず実態を確認してください。
2. 細かいルールより先に、会社の方針を決める
避けたいのは、プロンプトの書き方のような末端のルールから手をつけることです。AIの進化は速く、細かいマニュアルはすぐ形骸化します。ミッション・ビジョン・バリューを決めてからルールを作るのと同じ順序で、まず方針を定めてください。そして「継続的に見直すこと」自体をルール化する。ここまででワンセットです。
3. 既存の文書体系を棚卸しする
ISMSやPマークで作った方針・手順・記録のうち、どれがAIMSに流用できるかを整理します。この作業をしておくと、実際に着手したときの期間が短縮できます。
今日からできる一手として、個人アカウントでのAI利用をやめ、法人ライセンスに切り替えることもお勧めしています。個人アカウントが危険なのは、退職した社員が会社情報の入ったアカウントをそのまま持ち出せてしまうからです。まず会社として手綱を握ることです。
AIの管理体制は「取引条件」に変わりつつある
相談の質が、この1年で明確に変わりました。
以前は「AIを使っても大丈夫なのか」という漠然とした不安のご相談が中心でした。今は「取引先からAIの利用管理体制について質問票が届いた」「サプライチェーンの上流企業からAI利用ルールの提出を求められた」という、外部起点の具体的なご相談が増えています。
AIの管理体制が、社内の心配事から取引条件に変わり始めています。
経済産業省が構築を進めるSCS評価制度(サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度)も動き出します。企業のセキュリティ対策レベルを★1〜★5で評価する仕組みで、★3と★4については2026年度下期からの運用開始が予定されています。「★3以上の企業としか取引しない」という選定が、当たり前に行われるようになると見ています。
そして重要なのは、体制を整えることがAI活用のブレーキにはならないという点です。むしろ逆で、現場が最も疲弊するのは「使ってよいのか悪いのか分からない」グレーの状態です。線が引かれれば、社員は安心して使える範囲を全力で使えます。ガバナンスは、アクセルを踏むための整備です。
UPFでは、AI利用の実態把握から、方針・ガイドラインの策定、社内教育、そしてAIMS(ISO/IEC 42001)認証の取得・運用まで一貫してご支援しています。
- AIMS(ISO/IEC 42001)認証取得支援:90万円(税別)〜
- AI社内ガイドライン策定支援:15万円(税別)〜
すでにPマークやISMSをお持ちの企業であれば、その体制を土台に最短距離で進められます。まずは現状の棚卸しからでも、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
株式会社UPF
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